「プラート美術の至宝展」@損保ジャパン東郷青児美術館

 フィレンツェ近郊の小都市プラートの美術、中でも、聖母マリアが被昇天後、証として使徒トマスに天から授けたという「聖帯」の伝説を題材にした作品を紹介。


 この「聖帯伝説」は、キリスト教の聖遺物伝説の中でもマイナーな方なのではないかと。自分が初めて聞いた、ということもあるけど、数多ある「聖母被昇天」の絵画で、緑色の帯が強調されていたなんてことは記憶にないし(ティツィアーノの「聖母被昇天」とか)。まぁ、(ヴェネツィアみたいに)聖マルコの遺体を敵地アレキサンドリアから盗んで来た、みたいな派手な冒険活劇調の伝説が作れない小都市としては、帯の一つでも手に入れた、位のことは言いたかったのだろうと。


 フィリッポ・リッピと弟子の絵が展示の目玉。確かに滅多にない機会ではあるわけだけど、う〜ん、なまじリッピの手が入っているだけに、却って欲求不満が募る。例えばウフィッツィでもう一度見なくちゃ駄目だ、という気になる。リッピ自身の代表作に会えれば、もっと、ふわっと柔らかい気持ちになれるところなのに…


 でも、展覧会としては、誰を描いているのか一人一人の解説を書き込んだ写真を絵の隣に置いたりと、丁寧な説明を行っているのには、好感が持てた。勿論、何が描かれているかは出発点であって、その上で、どこが表現として優れているのか(新しい表現だったのか)まで本当は踏み込んで欲しいのだけど、少なくとも、詳しい解説は図録に細かい字で書いてあるから後で読め、的な展覧会からは脱却する努力が窺えるだけでも評価したい。子供向けのパンフレットまで作成しているところとかも。


 個人的には、大聖堂の壁画(リッピによる)の写真は、サロメについての本で、そのサロメ像の独自性について読んだばかりだったので、興味深かった。


 この一点という満足感が無かったのは残念だけど、見た価値は有ったかと。そうそう、副題で「フィレンツェに挑戦した都市の物語」と大きく出た割には、その辺の愛憎劇が作品からだけでは余り明確に伝わって来なかったのも、やや残念だったかな。