バイエルン国立歌劇場「アリオダンテ」@東京文化会館

ヘンデルというと、どうしても「メサイア」のイメージが強いけど、バロック・オペラの世界は観客受けを狙った、もっと派手で毒々しいものらしい。愛と欲望の3時間サスペンス。


 全く同じ台詞を最低5回、多い時だと10回は繰り返さないと次の台詞に進めない、というのは現代の娯楽としてはさすがにどうかと思ったけど。1幕で陰謀が語られるのだけど、それが実際に行われるのが2幕になってから。1幕は何も起きない。物語ではなくて超絶技巧の歌合戦、と理解するのが当時のオペラらしいけど、現代の映画なら始まって15分で事件の一つは起きているところだよなぁ。


 でも、退屈かというと、そうではなくて。それはやっぱりオールデンの演出によるところが大きいような。演出のテンポのスピーディーさは想像以上だった。オサレな人達が好んで観るようなオペラ(つまりは最先端の演出)とはこういうものなのか。


 特に2幕末のダンスのシーン(王女の夢)で最後、それまで踊っていた王女役のダンサーが一瞬で素っ裸に剥かれて、水槽のような透明な棺桶にすぱんと放り込まれるシーンの切れ味には、え?と唖然。


 ヘンデルの楽曲も繰り返しつつ劇的な感じで面白かったし(マイケル・ナイマンの映画音楽みたいな感じで)、カウンターテナーの悪役も、はまり役で良かった。そういえば、悪役が甲高い声、というのは自分の中に刷り込まれている類型の一つなのだけど、その最初は誰なんだろう?と余計なことを考えていた。…やっぱり、ベルク・カッツェかしら?


 一つだけ残念だったのは、タイトルロールのアリオダンテを演ずるマン・レイがおばさん、というかお婆さんだったこと。じゃなくて、姿勢がすごく悪くて、猫背で体をふにゃふにゃ揺らしながら歌うのが、どうにも… まぁ、超絶技巧の持ち主らしいのだけど、騎士としてのイメージからは既に大きく外れてるような。


 ちなみに、席はたまたま取れたエコノミー席(1万円)。舞台もよく見える3階右端側で、4,5階だと思うE席(2万円)よりももしかしたら良い席だったかも。少なくとも1万円の体験としては非常に得をした気分。…まぁ、招待席で観ているような連中は別にして。


NBS 日本舞台芸術振興会